キッテルセンとトロール
ノルウェーの国民的画家テオドール・キッテルセンが描くトロール(北欧に伝わる妖精)は、まるで森のなかから生まれ出てきた草花やきのこのように、なんの違和感もなく、自然な風合いで描かれています。
テオドール・キッテルセン「Creepy, Crawly, Rustling, Bustling」 1900年
テオドール・キッテルセン「Stooks of Grain in Moonlight」 1900年
最初に風景画を描き、その舞台にトロールという空想の生き物を加えた、というよりも、トロールが景色そのものと一体化し、調和しています。
いつかどこかでこういう光景がほんとうにあったのではないか、と想像させてくれます。
そのことを象徴するエピソードを、キッテルセンの9人兄弟の末の息子のヘルゲ・テオドール・キッテルセンが、のちに語っています。
キッテルセンの子供たちは、自分の父親がトロールや森の妖精たちと会ったことがあると信じて疑いませんでした。
キッテルセン自身、他の画家がトロールの絵を描くと、「彼がトロールの絵をかくんだって。トロールを見たこともないくせに!」と気を悪くしたそうです。
キッテルセンにとってトロールはそれほど身近な、確かなものとして存在していたのでしょう。